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【今月読んだ本】言葉の海をさまよう/火花

      2023/04/09

今年は毎月最低1冊は本を読むことを目標にして、読んだ本を感想のようなものを記していく。飽き性だから1年続けられるかはわからないが…。

3月に読んだのは、鈴木絢音『言葉の海をさまよう』、又吉直樹『火花』の2冊。

鈴木絢音『言葉の海をさまよう』

推しの書籍、ということでもちろん購入。とりあえず我が家には2冊ある。栞をコンプするためにはもう1冊買わないといけないのだけど、これを書くまでそのことを忘れていた。仕事が忙しくて余裕がない日々が続いているのもあるが、彼女が乃木坂46を卒業すること、卒業後はこれまでの卒業メンバーのようにすぐに表舞台に立つことはないだろうという予感に気を取られていたことも理由なんじゃないかと今になって思う。

本書は「辞書を作る人たちと対談」という辞書愛にあふれる彼女ならではの小説幻冬で連載されていたものをまとめた一冊。辞書を作るうえでの工程から、制作に携わる人々の思いや趣味まで、辞書づくりの裏側を知ることができる。作る側の目線から語られる辞書への細かなこだわりや楽しみ方を知れるので、本書を読んだことで辞書を“読みたくなる”人が増えることは間違いないだろう。

ファン的な視点から書くと、誤解を恐れずにあえて現代的な言葉を使うと一冊を通してエモみを感じる。それはこの連載がおそらく彼女にとって数少ない、“後輩へつなぐ”ことを第一に考えず自分自身を優先に臨めた仕事だったであろうこと、書籍発行にあたっての撮影のために彼女の1st写真集『光の角度』のスタッフ陣が再集結したことにある。前者については卒業セレモニーでの「ちょっと苦手だなって思うことも、やったことないなって思うことも、乃木坂46のためになるならって頑張ってきました」という発言と、書籍発売に関する最初のSHOWROOM配信時のテンションがいつもの配信より明らかに高かったことを踏まえての私の勝手な推測ではあるけれど。

掲載写真に、光のなかで笑っている彼女の写真があって、これが特に私の心を掴んで離さない。写真ではりんとした表情を見せがちな彼女が、両手で口元を隠しながら無邪気に笑うカットなのだが、そのまま光のなかにスーッと溶けて消えていってしまいそうな儚さを感じてしまった。前述の卒業後の予感もあったから、余計にそう見てしまったのかもしれない。

あとがきの代わりに収録されたエッセイは、乃木坂46の看板を背負っていない彼女の素の部分を見られる数少ないものだと思う(ミーグリとかではその面を出していたのかもしれないが、そこは歴の浅い私は知らない世界なので…)。出会いから、倦怠期(?)を経て再び親しくなるまでの辞書との関係性が4ページにわたって淡々と綴られている。他者に失礼がないよう努めてきたであろう彼女が「言葉の未熟さと不完全さに気づいた時、ほんの少しだけ生きやすくなった」と書いていてなんだか安心した。

ファンとして、乃木坂46という大きな看板を降ろして身軽になった彼女を見てみたい気もするが、今はゆっくり休んでほしいとも思う。ファンとは実にわがままである。光のなかで笑っていてね。

又吉直樹「火花」

前々から気になりつつも、読書が億劫に感じる期間があまりにも長かったのでそのまま読んでおらず、このたび読書ブーム再来のタイミングでたまたま書店で見かけたので購入。待ち合わせ時間をつぶすための相方として手に取ったものの、冒頭の熱海でのくだりで引き込まれてしまい、後日読書のための時間を確保して一気読みした。

漫才師として夢を追うスパークスの徳永と、その師匠・あほんだらの神谷の青春物語。2人のちょっと特殊な(でも100%ありえないと否定はできないようななんとも珍妙な)師弟関係は微笑ましくもあり、変でもあり、悲しくもあり、理解できないところもある。身近にいたら嫌だけど、読者として対峙すると憎めない。特に世間を巻き込むような大きなことを成し遂げるわけではないけれど、目と手がぐいぐいと読み進めていってしまう魅力がある。

クライマックスのスパークスの漫才は、これまでの物語はすべて助走だったのだと言わんばかりの気持ちよさ。例えるなら転調して、実は違和感なくテンポも上がっている大サビのような。そのあとにはちゃんと大サビの余韻を残しつつもその後始末をするアウトロが用意されている。一連の流れには師匠の常軌を逸したエピソードが入り込んでくるにも関わらず感動してしまったし、なんならちょっと泣きそうになった。

実家を出て、一人暮らしを始めて、成人を過ぎてもなお夢を追うような青春を送る勇気も自信もなかった身としては、ここに描かれているのは憧れの世界なのかもしれない。漫才師を目指そうとも、いまさら自分の器には収まりきらない大きな夢を追う気はないが、とりあえず熱海に行きたくなったし、今年の夏は花火を見たいとも思った。いつの間にかこういう青春ものにとんと弱くなってしまったなあ。

この読書感想文を書きながら、自分をスパークスの徳永にも、あほんだらの神谷にも重ねながら読んでいたことに気がついた。20代のころに手に取らなくてよかった。30代になってから読んでよかった。

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