2023年8月29日に新型コロナウイルス感染症にかかった妻。5日後に熱は下がるも、そこから罹患後症状(いわゆる後遺症)との戦いが始まった。
8か月目に入ろうとしている現在も、相変わらず起床から就寝までの時間のうち半分くらいはひどい倦怠感、脳が焼けるような熱さ、ほてり、異常な疲れやすさ、その他いわゆるブレインフォグといった症状が残っている。
はっきり言って、これは異常事態だと思う。後遺症に悩まされ続けている人が身近にいると、新型コロナウイルスをインフルエンザと同じ5類感染症扱いにしたのは間違っているんじゃないかと思わざるを得ない。
とはいえ、まったく良くなっていないわけではない。例えば後遺症初期にあった、“体を起こすことすらできずに1日中ただ横になっているだけ”というほとんど日はなくなった。前述の症状についても、初期に比べると若干ではあるが軽くはなっている。これは希望だ。
では「これまでの日常生活が取り戻せたか」というと、それはまったくそうではない。
症状が若干軽くなったとはいえ、それだけである。今の生活は新型コロナウイルス感染前と同じものとは到底言えない。倦怠感といった症状が出れば否応なしに何もできなくなる(座っているのもしんどくなる)うえに、夜ご飯〜就寝の時間帯に限って症状が落ち着いていることは多いが、基本的には症状が出る時間帯はまちまち。
もともと気圧の変化に弱かったが、これに関しては弱体化魔法をかけられたのかと思うほど弱くなった。体調の良し悪しが今まで以上に天気に左右されるようになってしまった。
これといった薬があるわけではないので、今は症状に合わせた漢方やビタミン剤を処方してもらいつつ、“クラッシュ”が起きないように注意しながらもリハビリをかねて日常的な動きをするのが精一杯。外出は大きく体力を消耗する(5分も歩かないうちに息があがり歩行ペースが落ちる)ため、超近場にしか行けない。外出時は杖を持つようになった。
これは大げさでもなんでもなく、いまだに1時間後の体調すら読めない日々が続いている。だから社会復帰もできていないし、そもそもこんな状態ではできるわけがない。
長い戦いになることは予想していたが、半年経っても大きく改善されないことは予想外だった。いつになったら回復するのかわからないのがこの上ないストレスで、それ故に本人は不安に襲われ、(この1〜2か月は頻度は減ったが)それによってうつ気味になることだってある。
これは決して良いこととは言いきれないが、事実として“コロナ後遺症に悩まされ続けているのは自分だけでない”ということは妻の心の支えにはなっているようだ。しかし、この事実が問題を解決してくれるわけではない。その場しのぎの痛み止めレベルの効果しかないし、後遺症に悩まされている人たちが一刻も早くその不安から逃れられるに越したことはない。
これが新型コロナウイルス感染症による後遺症に悩まされている人の現実だ。そしてその家族の声だ。特効薬がない今は、日常的な生活の面はもちろん、精神的な面からも妻を支えるしかないのだが、当事者たちはいつまで戦い続けなければいけないのか。目の前のことを見ているうちはまだいいが、ふと将来に目を向けると不安でしかない。
そういえば妻は最近、編み物を始めた。細かい作業のため後遺症患者には向いてないんじゃないかと思いきや、本人にとってはいい暇つぶしになっているようだ。大きく体を動かすわけではないから体力を大幅に消費することはないし、成果物を伴って時間を潰すことができるから時間を持て余している状態よりはだいぶいい。楽しんでやれているため、精神面にもいい影響を与えている様子。人を選ぶのかもしれないが、手芸はありかもしれない。
近所にある桜の木はほぼ満開になった。果たして来年は、一昨年までのように“普通”に桜を見に行くことはできるのだろうか。マイナスなことなんて脳内から排除したいのだが、それでも、そんな考えが頭をよぎってしまう。
1989年7月生まれ。のらエッセイスト