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【書評】男性作家が描く、7つの青春の終わり「少女は卒業しない」

   

dokusyo_inu

2013年、同い年の作家が直木賞を受賞した。

このことがなんだかんだでずーっと気になっていました。いちおう僕も雑誌の記事を書いているので、厳密には違えど、端くれながら文章を書くという点では同じジャンルにいるわけです。

もちろん比べるなんておこがましいし、出身地とか全然重なってないんですけど、同学年だし、そういうことです。とにかくこの人のことが頭のどこかに引っかかっていました。

先日、時間つぶしのため書店に入ったところ、この本が目に留まりました。

 

映画化された「何者(新潮文庫)」が話題になっている時期で、「しばらくは『何者』は絶対に読まないぞ!」とひねくれ者らしい決意をもっていたこともあって、この本はちょうどよかったんです。

「朝井リョウ」という名前は知っているけど、「少女は卒業しない」というタイトルは聞いたことがない。よし、読んでみよう、というわけです。

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◆あらすじ

舞台となる高校は、今年の卒業式をもって廃校になってしまう。解体工事が始まるのは卒業式の翌日から。そんな「高校卒業」と「母校の廃校」という2つの未来を目前にした7人の少女たちのそれぞれの青春物語が、卒業式当日の朝から深夜までの時間軸に沿って描かれます。

たった1度だけ見た写真に写っていた女性に憧れを抱く「エンドロールが始まる」、まったく違う道を進んだ幼なじみと卒業式の直前に再会する「屋上は青」、先輩への思いを詰め込んだラブレターのような「在校生代表」、お互いの将来を見据えた末に現実と向き合う「寺田の足の甲はキャベツ」、なんだよお前もかよ的な「四拍子をもう一度」、僕の中では超消極的な碇シンジと思いやりのあるアスカ・ラングレーで映像が浮かんだ「ふたりの背景」、廃校工事当日の早朝に校舎に不法侵入しちゃう「夜明けの中心」。以上、短編7つ。

・・いや別に後半は集中力が切れたわけじゃないですよ。そういう話なんです。読んだ人ならこういう説明の仕方でも納得してくれるんじゃないでしょうか!

◆男だからこそ書けた、少女たちの青春群像劇

「作者ってホントは女なんじゃないかな」って思うくらい、少女の心の揺れの描写が繊細です。丁寧に書かれてるんだけど、決して少女の感情に入り込みすぎてはいないので重く感じず、全体を通して淡々と読み進めることができました。

この本に出てくる少女たちって、異性から見たときの理想の少女像なんです。悪口を言わず、純粋で、青春にまっすぐ向き合う心が純白女子高生なんていまどきいないでしょ。いまどきというか、少し昔に遡ってもほぼいない。これは妄想上の生き物です。ということは、やっぱり作者は男ですね。

どんなに綺麗な人でも、十中八九、腹黒い部分は持っているものです。で、その腹黒い部分っていうのは魚の血合い肉みたいなもので、ないとちょっと物足りない。実は腹黒い部分にこそ、人間らしさだったり、その人なりの味だったり、そういうものも含まれてるんじゃないでしょうか。

でも、ここに登場する少女たちからは、血合い肉のエグみに当たる部分は取り除かれています。これは甘酸っぱさより切なさが勝る青春物語にはないほうがいいという作者の判断でしょう。妄想上の生き物感が増しますが、僕はこの判断に賛成です。おかげで大人になろうと懸命に背伸びする少女の葛藤と成長が雑味なしでよく見えました。

これ、同じようなコンセプトで女性が書いていたら、きっともっとドロドロした作品になったんじゃないかなーと思います。女の腹黒さを知っているぶんそこが見えすぎるというか・・。あくまで想像ですけど。

そう考えると、この本は男性向きなのかもしれないですね。

◆少女はいつまでたっても少女

「少女は卒業しない」、正直タイトル買いなところもあります。どんな意味なのか、ぼんやりと考えながら読んでいると、ぼんやりと答えのようなものが見えてきた気がします。

卒業するということは、「それではなくなる(=失う)」ということです。でも、少女は卒業しない。ここでいう少女とは、年齢ではなく、精神的な部分を指しているんじゃないでしょうか。

彼女たちは、年をとってもここに描かれる少女の時代に過ごした青春はずっと忘れないでしょう。なぜならすべての物語において、登場人物たちみんなが納得したの上でのピリオドが打たれているから。後腐れのない、大切な思い出として記憶されるはずです。そしてそれらの思い出は経験となり、その人の中に地層のように重なっていきます。

“大人になる”ということは、少年/少女時代もぜんぶひっくるめた、この“地層が高くなる”ことなんです。大人の余裕というのは、経験によって高いところから物事を見渡せるから生まれるんです。だから、少女は卒業しない(=少女を失うわけではない)、のかなーと。

いい年してフリフリのスカートを履いていらっしゃる方もたまに見かけますが、そういう方々はきっと少女時代にできた地層が厚いんでしょう。そういうことでしょう。

The answer is blowin’ in the wind.

この本にエンディング曲をつけるとするなら、ボブ・ディランの「Forevre Young(邦題:いつまでも若く)」(アルバム『Planet Waves』収録)を推薦します。あ、テンポが遅いほうのバージョンね。

◆グッとくる(Good Cool)フレーズ

「甘酸っぱい青春」なんてものは体験していないのでよくわかりませんが、卒業式の近辺で得体の知れない切なさのようなものが漂っていたのを思い出しました。きっと僕が知らないだけで、こういう物語は僕が通っていた高校でも起こっていたんでしょうね。

最後に、グッときたワンフレーズ、通称「グッとくる(Good Cool)フレーズ」を紹介します。

本書に置ける話の切なさ、現実にあり得そうな状況のリアルさは、4つ目の短編「寺田の足の甲はキャベツ」でピークを迎えます。こういう話を全体の真ん中に持ってくるの、ニクいですね。

このひざうら越しに見える景色が、東京だったらよかった。このひざのうらの向こうに東京タワーが立ってて、新宿とかがあって、絡まるぐらいに地下鉄がめぐっていれば、あたしは寺田の隣でまた花火ができた。ちゃんと、夏に、夜に、花火ができた。

「寺田の足の甲はキャベツ」より
大分県生まれ、熊本県育ち、福岡県在住。日曜音楽家として音楽制作、駄文筆家として本ブログの執筆を行う。そのほか、”撥弦楽器をこよなく愛するサボテン男”、”孤独のグルメごっカー”なども自称。代表曲は「マインクラフトのうた」「Paris 1920’s(『KORG M01D Super Users Official Compilation vol.1』収録)」など。

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